コラム9. 設計者が知るべき板金材料の選び方|鉄・ステンレス・アルミの違い

板金加工において材料選定は、製品性能、加工性、コスト、耐久性などに直結する極めて重要な要素です。設計者は用途や製品要求に応じて、最適な材質を見極める知識が求められます。ここでは代表的な三種の材料「鉄(SPCC・SS400)」「ステンレス(SUS304など)」「アルミ(A5052など)」の特徴と選定ポイントを解説します。

まず鉄材料(SPCC、SS400など)は、価格が安く加工性も良好なため、構造部材やカバー類など幅広く使用されます。SPCCは冷間圧延鋼板で外観が良く、主に外装用途に使われます。SS400は熱間圧延鋼材で、機械構造物の骨組みに使われますが、耐食性が低いため防錆処理が必要です。

ステンレス鋼(SUS304など)は、耐食性が高く、医療機器や食品機械、屋外設備などに多用されます。加工時には硬化しやすいため、レーザー切断やTIG溶接などとの相性が良いです。美観も優れており、バフ研磨やヘアライン処理で高級感ある仕上がりが可能ですが、材料費と加工費は高めになります。

アルミニウム(A5052など)は、軽量で耐食性があり、航空機、自動車、電子機器などで使用されます。放熱性に優れており、軽量化が求められる製品には最適です。ただし、鉄やステンレスに比べて剛性が低く、TIG溶接や表面処理にコツが必要なため、熟練した加工技術が求められます。

材料選定では、「使用環境」「強度」「重量」「コスト」「見た目(外観品質)」のバランスを考慮することが基本です。たとえば屋外や水回り製品ではステンレス、軽さを求めるならアルミ、コストを抑えたいなら鉄を優先する、といった使い分けが理想です。

また、加工方法との相性も無視できません。鉄は全般的に加工性が高いですが、アルミはバリが出やすく、ステンレスは溶接熱により歪みやすいため、板厚や形状にも注意が必要です。表面処理(塗装・アルマイト・電解研磨)も含めて、総合的に設計することが求められます。

最適な材料選定は、製品の品質だけでなく、加工性や価格競争力にも直結します。材料特性を正しく理解し、用途に合った設計を行うことが、信頼される設計者への第一歩です。