コラム7. 板厚と公差の選定基準|設計者が押さえるべき板金加工の実際

板金加工では、設計段階における板厚と公差の選定が、最終的な製品の性能、加工性、コスト、納期に大きな影響を与えます。適切な板厚は構造強度や重量バランスに直結し、適切な公差設定は無駄な再加工や検査工数の削減に繋がります。

まず板厚については、製品の用途に応じた選定が基本です。たとえば筐体などのカバー部品にはt1.0〜t1.5mmの薄板が多く使用され、剛性を要するフレームや補強部材にはt2.0〜t6.0mm程度の厚板が使用されます。ただし、単に強度を優先して厚板を選定すると、加工コストや重量が増し、溶接歪みも大きくなります。したがって、必要な強度を満たす最小限の板厚とすることが理想です。

次に公差設定に関してですが、過剰な精度要求は製造コストの大幅増につながります。板金加工では、加工方法によって達成可能な寸法公差が異なり、たとえばレーザー切断では±0.1~±0.2mm、曲げ加工では±0.5~±1.0mm程度が一般的な許容範囲です。曲げによるばらつきや歪みも含めて、実際の加工精度を理解したうえで、必要最小限の公差を設定することが重要です。

また、穴位置やピッチ寸法に対する公差も注意が必要です。特に複数部品との位置合わせが必要な場合、組立誤差を吸収するための「遊び」や「スロット形状」を設ける工夫が有効です。機械加工のような高精度な合わせを板金に求めると、追加工が必要になり、コストと納期が大きく膨らむリスクがあります。

さらに、板金公差は単体部品だけでなく、アセンブリ(組立品)全体で管理すべきという視点も必要です。部品単体で高精度にしても、溶接や組立で発生する累積誤差により、最終的な組立精度が確保できないことがあります。これを防ぐには、重要寸法だけを重点的に管理し、それ以外はゆるめの公差とする“メリハリある設計”が効果的です。

最後に、図面上での公差指示の明確化も重要です。「特に指示なき寸法の公差はJIS B0405-m級に準ずる」などの注記を入れることで、製造側との認識ずれを防ぎます。また、加工現場との対話を通じて、実際の設備能力に基づいた公差管理を行うことが、現実的かつ効率的な製品づくりに繋がります。

板厚と公差の選定は、単なる数値設定ではなく、設計者が製造工程全体を理解したうえでの判断が求められます。コスト・品質・納期のバランスを取るためにも、板金加工の特性を踏まえた設計力が重要です。